フレックスタイム制での残業の考え方・残業代の計算方法

フレックスタイム制という働き方は、すでに一般的なものとして社会で認識されてきているといっていいでしょう。
ワークライフバランスが重視されるようになっている現代では、うまく利用すれば、生活全体の質を向上させるために非常に役立つ制度であるということがいえます。

しかし、制度の性質上、残業時間や残業代の把握がしにくい面があり、そのために労働者に不利益が生じてしまうこともありえます。

フレックスタイム制のもとで働いていながら、かえって損をしてしまうようなことがないよう、制度の中身や残業代の計算方法などを、しっかりと理解しておきましょう。

フレックスタイム制における残業の考え方

まず、フレックスタイム制の概要と、残業時間の取り扱いについて、以下で説明していきます。

(1)フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、1日の始業・終業時刻や労働時間の長さを固定せず、3ヶ月以内の一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めて、その総労働時間の範囲内で、労働者が日々の労働時間を自ら決めて働ける制度のことをいいます。

フレックスタイム制は、労働者が仕事と生活とのバランスをとりながら、効率的に働ける制度としての側面を持っています。

フレックスタイム制を採用している会社では、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)の区分を設けていることが多いです。
もっとも、コアタイム及びフレキシブルタイムの設定は必須とはされていません。

(2)フレックスタイム制における「残業」とは何か

フレックスタイム制における残業とは、清算期間における総労働時間を超えて働くことを意味します。
自らの意思で始業・終業時間や労働時間を決められる制度であり、労働時間の規制は清算期間を単位として行われるため、「1日8時間」や「週40時間」という法定労働時間を特定の日又は週に超えても、清算期間を通じた総労働時間を超えない限りは、残業(時間外労働)にはあたりません。
フレックスタイム制で会社が定める総労働時間は、清算期間内の週平均労働時間が40時間を超えない範囲内で決めなければならないとされています。そのため、「清算期間の暦日数÷7日×40時間」で求められる時間以下でなければなりません。

例えば、清算期間が1ヶ月で、暦日数が30日の月という場合は、30日÷7日×40時間≒171.4時間が、法律で定められている労働時間の上限(法定労働時間)になります。
この月に180時間働いた場合は、180−171.4=8.6時間が残業(時間外労働)時間となります。
また、清算期間が1ヶ月を超える場合、1ヶ月ごとに区分した各期間において週平均50時間を超える労働時間があったときは、その超過分はその月の時間外労働として扱われます。

例外として、特例措置対象事業場(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画の製作の事業を除く映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)では、清算期間が1ヶ月以内の場合に限り、上記の式で40時間だった1週間の法定労働時間が44時間となります。

なお、そもそも残業(時間外労働)及び休日労働をさせるには、労働者と使用者との間で、36協定の締結・届出をすることが必要です。

(3)フレックスタイム制における「休日労働」とは何か

フレックスタイム制は、一定のルールの中で労働時間を自由に定められる制度であり、休日を自由に定められる制度ではありません。

また、フレックスタイム制でも、少なくとも毎週1日、または4週につき4日の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。
この休日を「法定休日」といい、法定休日における労働を「休日労働」といいます。

したがって、フレックスタイム制が採用されている場合でも、法定休日に働けば休日労働となり、時間外労働とは別の割増賃金が支払われることになります。

引用:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省

フレックスタイム制における残業代の計算方法

フレックスタイム制の時間外労働にかかる賃金(残業代)は、「残業代=基礎賃金×割増率×残業時間」の計算式で算出できます。

以下では、残業代の計算にあたって必要になる、それぞれの項目について解説していきます。

(1)法定内残業と法定外残業

いわゆる残業には「法定内残業」と「法定外残業」があります。

法定内残業とは、会社で決められた総労働時間は超えているが、法定労働時間は超えていない部分の残業をいいます。

法定外残業(時間外労働)とは、法定労働時間を超えた部分の残業をいいます。
法定外残業には、一定以上の割増賃金が支払われることとなっており、この規定は労働基準法で定められています。

一方で、法定内残業に割増賃金を支払うべきというルールはなく、法定内残業の賃金を割り増して支給するかどうかは会社の規定によります。
また、法定内残業に対して割増賃金を支払う義務はないものの、通常の時間賃金を支払う義務は負うので、法定内残業でも賃金そのものは出ることになります。

(2)フレックスタイム制の残業代=基礎賃金×割増率×残業時間

フレックスタイム制で法定外残業をした場合や法定休日に働いた場合、また深夜に働いた場合の賃金は、「基礎賃金×割増率×残業時間」で求められます。

  • 基礎賃金は、1時間あたりの賃金のことをいいます。
  • 割増率は、労働基準法にそれぞれ規定があり、時間外労働(法定外残業)は25%、休日労働は35%、深夜労働(22~5時までの労働)は25%とされています。(時間外労働、休日労働に関して37条1項、深夜労働に関して同条4項)

時間外労働と深夜労働、休日労働と深夜労働は、それぞれ重複して適用されます。
例えば、法定休日の深夜に残業を行った場合には、その部分の割増率は60%ということになります。

  • 残業時間は、法定外残業(時間外労働)の時間、法定休日に働いた時間などが、それぞれ相当することになります。

フレックスタイム制では、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた部分が時間外労働となります。

法定労働時間の総枠は、原則として「1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦日数÷7日」という計算によって求められます。
清算期間が1ヶ月を超える場合には、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えてはならないとされているため、

  • 1ヶ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
  • 1でカウントした時間を除き、清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間

が、それぞれ時間外労働となります。
したがって、例えば清算期間を3ヶ月とした場合、最終月には当月の1と2、及び過去2ヶ月分の1を合計して全体の時間外労働時間を算出します。
また、最終月に1ヶ月に満たない期間が生じた場合には、その期間内について週平均50時間を超えた部分が時間外労働として計算されます。

引用:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省

フレックスタイム制を理由に違法な残業を強いられていませんか?

フレックスタイム制は本来、労働者が仕事と生活のバランスをとりながら効率的に働けるようにするための制度です。

しかし残念ながら、フレックスタイム制を採用している会社の中には、フレックスタイム制を理由に労働者に違法な残業を強いる会社も存在します。

たとえば以下のようなケースがあります。

  • フレックスタイム制を理由に、長時間残業をさせる
  • フレックスタイム制を理由に、割増賃金なしで残業をさせる
  • フレックスタイム制を理由に、当月の残業時間を翌月の労働時間に繰り越すなどの処理を行う

フレックスタイム制の場合、どこからどこまでが残業にあたるのかが分かりにくいため、そのことを逆手にとって、上記のようなケースが生じてしまうのです。

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フレックスタイム制で違法な残業が発生しているときに労働者ができること

フレックスタイム制を理由に長時間残業やサービス残業を強いられている場合に、労働者はどうしたらいいでしょうか。
ここでは、以下で2つの手段について説明していきます。

(1)労働環境の是正を求める

第1に、長時間の残業を強いたり、残業代を支払わなかったりするような労働環境の是正を、会社に求めていくことが考えられます。

会社に環境の改善を要求する以外にも、労働基準監督署に相談するという手段もあります。
労働基準監督署に相談した結果、会社が労働基準法などに反していることが認められると、労働基準監督署は会社に対して是正指導・勧告をしてくれることがあります。

労働基準監督署は全国各地にあり、厚生労働省のウェブサイトで所在地などを調べることができます。

参考:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省

(2)未払い残業代を請求する

第2に、未払い残業代を会社に対して請求することが考えられます。

働いた分の賃金(残業代を含む)が支払われていない場合、労働者は使用者(会社)に対し、未払い分の賃金を請求できます。
この場合は、タイムカードなどの客観的な証拠に基づいて未払い残業代を計算し、会社に請求します。

未払い残業代は、自分で請求することも可能ではありますが、弁護士に相談する方が正確かつスムーズに手続きが進みます。

また、在職中だけでなく、退職した後も未払い賃金の請求は可能です。
ただし、賃金の請求権には時効があります。
2020年4月1日以降に支払日が到来した賃金請求権(残業代請求権)の消滅時効期間は3年、2020年3月31日までに支払日が到来した賃金請求権(残業代請求権)の消滅時効期間は2年となっていますので、注意が必要です。

フレックスタイム制での未払い残業代について弁護士に相談するメリット

フレックスタイム制で未払い残業代が発生している場合には、弁護士に相談した方が数多くのメリットを得る可能性があります。
そうしたメリットのうち、以下で3点を取り上げて説明していきましょう。

(1)証拠がなくても相談に乗ってもらえる

現在の状況が法的に見てどういった状態にあるのか、どういった方針で問題を解決していくべきかを知るためにも、まずは弁護士に相談してみるのがおすすめです。

労働基準監督署は証拠がないと動いてくれませんが、弁護士に対しては、確固たる証拠がなくても、残業に関する悩みを相談することができます。その上で、これから集めるべき証拠や、その証拠の集め方、進め方などを詳しくアドバイスしてくれます。

(2)会社との交渉や手続きを一任できる

弁護士に未払い残業代請求を依頼すると、会社とのやりとりや交渉などの負担から労働者が解放されます。

未払い残業代の計算も正確にしてもらうことができますし、内容証明郵便で請求書を送るなどの諸手続きを弁護士に一任することができます。

労働者本人が会社と直接交渉しようとしても、会社側が聞き入れてくれなかったり、曖昧に流されたりするようなケースもあるでしょう。

そのような会社でも、弁護士が代理人として交渉していくことで、会社側が交渉のテーブルについてくれる可能性もあります。

弁護士は何より依頼者の立場を第一に考えて交渉を進めていきますので、ご安心ください。

また、弁護士なら、会社との交渉から労働審判、労働訴訟までをトータルでサポートすることができます。

(3)成功報酬制を取っている法律事務所もある

弁護士費用を心配する人は、相談料・着手金が無料で、成功報酬制の法律事務所を探すとよいでしょう。

たとえばアディーレ法律事務所では、残業代の請求を含む労働トラブルの相談料は何度でも無料、依頼時の着手金も無料となっています。
また、労働審判や訴訟に移行した場合の追加着手金も無料です。
弁護士費用については、獲得した解決金などの中からお支払いいただく成功報酬制を採用しています(例外として、途中解除の場合には、成果がない場合にも事案の進行状況に応じた弁護士費用等をお支払いただきます)。

【まとめ】フレックスタイム制では、残業時間や残業代を期間全体で考え、計算します

今回の記事のまとめは以下のとおりです。

  • フレックスタイム制における残業(時間外労働)は、週の法定労働時間を期間全体に換算し、その総枠を超えた部分が該当します。
  • フレックスタイム制における残業代は、そうして算出した残業時間に割増率、基礎賃金を乗じて計算します。
  • フレックスタイム制を理由として違法な長時間労働や残業代の不払いが生じている実態があります。
  • 違法な長時間労働については労働基準監督署などを通じて労働環境の是正を求め、残業代の不払いに対しては必要に応じて弁護士に相談しましょう。
  • 弁護士に相談することで、未払い残業代請求がスムーズになる可能性があります。

フレックスタイム制で働いているが、残業時間をあやふやにされているのではないかとの心配がある場合、未払い残業代があって請求を考えている場合には、アディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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