早期退職すると退職金はどうなる?よくあるトラブルなどを解説!

「早期退職」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
早期退職すると、定年を待って退職するよりも多くの退職金をもらえることが多いです。
他方で、早期退職を強要されるといったトラブルもあります。

早期退職について弁護士が解説します。

早期退職制度には2種類ある

早期退職とは、定年になる前に退職することで、退職金の金額が優遇される制度のことです。
大手企業を中心に、早期退職制度を導入する企業が増えています。
早期退職制度には「選択定年制度」と「早期希望退職制度」の2種類があります。
この2種類の早期退職制度についてご説明します。

(1)選択定年制度

あらかじめ選択した年齢に達した時点で早期退職するかどうか本人が決められる制度です。
通常は、選択した年齢に達した時点で早期退職すると退職金の金額が優遇されます。
勤務先の企業が選択定年制度を設けているかどうか、設けている場合の諸条件などは就業規則で確認が必要です。
選択した定年に達した後も勤務を続けた場合は給与が減額されたり役職をはずれたりすることもあるので注意が必要です。

(2)早期希望退職制度

企業の業績悪化などを理由に早期退職を希望する者を募る制度です。
通常は、退職金の割増や再就職の斡旋などの優遇措置を受けられます。
「〇歳以上」や「勤続年数〇年以上」など、一定の条件のもとで募集されることが多いです。
会社側が予想した人数より応募が少ない場合、会社側から対象となる社員に直接早期退職するよう促されることもあります。

(3)選択定年制度と早期希望退職制度を利用する際の注意点

上記で紹介した選択定年制度と早期希望退職制度は、自己都合退職か会社都合退職かという違いがあります。

会社都合退職の場合、失業給付(基本手当)について、給付期間が増えたり、失業手当が自己都合退職の場合よりも早く受け取れたりするなどの違いがあるため、注意する必要があります。

(3-1)選択定年制度を選ぶと「自己都合退職」に

選択定年制度は従業員自らが恒常的に設置された社内の制度を利用するものという性質があるので、選択定年制度を選ぶと「自己都合退職」となります。
自己都合退職の場合、雇用保険から失業給付(基本手当)を受け取るときに7日間の待期期間がある上に最長3ヶ月の給付制限期間もあるため、会社都合に比べ、基本手当を受け取ることができる時期が遅くなります。
また、給付日数も会社都合退職よりも短くなる可能性があります(被保険者期間や年齢によっては、会社都合退職と給付日数が変わらないこともあります)。

(3-2)早期希望退職制度を利用すると「会社都合退職」に

早期希望退職制度は会社側の都合によって臨時的に行われる退職者の募集に応じる制度であるため、通常は「会社都合退職」になります。
会社都合退職となると、7日間の待期期間はあるものの、自己都合退職に比べると早く基本手当を受け取ることができます。
給付日数は、被保険者期間や年齢によりますが、例えば、被保険者期間が20年以上、離職時の年齢が45歳以上60歳未満の場合で最大330日受け取ることができます。
障害者等の就職困難者については、被保険者期間が1年以上、離職時の年齢が45歳以上65歳未満の場合であれば失業手当が最大360日間受給できます。

参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス

早期退職するメリット・デメリット

早期退職には、メリット・デメリットの両面があります。
数十年先までライフプランを設計し、それを踏まえた上で早期退職するかどうかを決めるほうがよいです。
早期退職のメリット・デメリットを以下で具体的に説明します。

(1)早期退職するメリット

早期希望退職に応じる場合、一定金額が上乗せされた割増退職金を受け取れることが多いです。
また、早期退職をすることで、定年で退職する場合よりも若い年齢の内に、起業をはじめ、在職中にはできなかったようなことに新たにチャレンジできます。
早めにリタイア生活に入ることもできます。

(2)早期退職するデメリット

早期希望退職に応じて、職を失ってしまうと、定期的な給与収入がなくなります。
また、在職中に厚生年金に加入していた場合には、早期退職することで、厚生年金の加入期間が短くなるので、厚生年金の受給額が減る可能性もあります。

社宅に住んでいる場合は、退職までに家を引き払うことも必要になります。
また、早期退職後に無職となる場合は、ローンを借り入れるときや賃貸アパート・マンションを借りるとき、クレジットカードをつくるときに審査で不利になりやすいです。

早期退職後、再就職したくてもスムーズに再就職できるとは限らない点に注意が必要です。

早期退職で退職金はいくらもらえるか

早期退職すると退職金がいくらもらえるか、誰もが気になるところです。
政府の統計では早期退職をするか否かで退職金の金額(平均額)に大きな開きがあります。

(1)退職金制度(退職給付制度)とは

政府が行った2018年の「就労条件総合調査」によれば、退職金制度(退職給付金制度)を設けている会社は約80%です。
従前は定年まで勤めあげる会社員が多かったので、退職金はこれまでの労をねぎらう意味合い、老後の生活保障の意味合いがありました。
しかし、今はキャリアアップを目指して他社に転職することが当たり前の時代なので、退職金に対する意味合いも変わってきています。

参考:就労条件総合調査 平成30年 就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態|e-Stat

(2)給与規程・退職事由により給付額は大きく異なる

2018年の就労条件総合調査によると、勤続20年以上かつ24年以下の退職者(大学・大学院卒・45歳以上)についてみれば、給付された退職金の金額の平均は以下のとおりです。

定年退職 1983万円
会社都合退職 2156万円
自己都合退職 1519万円
早期優遇退職 2326万円

上記の統計によれば、早期優遇退職制度を利用すると、受け取れる退職金額の平均が自己都合退職の場合より800万円ほど高くなるっていることがわかります。

なお、大卒・勤続年数20年未満で中小企業に勤務している場合は、2020年度の東京都産業労働局の調査によれば、以下のようになります。

勤続10年:自己都合退職 113万5千円 会社都合退職 148万3千円
勤続15年:自己都合退職 214万9千円 会社都合退職 266万円

自社の退職金規程や給与規程の内容を確認し、何歳で、あるいは勤続何年で退職するとどれくらいもらえるか調べてみましょう。

参考:就労条件総合調査 平成30年 就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態|e-Stat
参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)|東京都産業労働局

(3)「年功型」か「成果報酬型」かでも金額は大きく変わる

年功型とは、勤続年数が長くなるにつれてもらえる退職金が増えるというものです。
一方、成果報酬型では、会社への貢献度合いが高いほど退職金が増えます。
成果報酬の場合、社歴が短くても成果を出して業績アップに貢献していれば、社歴が長い人よりも高額な退職金を受け取れる可能性があります。

(4)退職金の種類

退職金には、「退職一時金」と「企業年金(退職年金)」の2種類があります。
退職一時金のみ支給する会社もあれば、企業年金(退職年金)のみ支給する会社、両方を併用している会社もあります。
併用している会社では、退職金規程にもよりますが、受け取るときに「一時金で受け取るお金」と「年金として受け取るお金」の割合が決まっていることもあれば変えられることもあります。
それぞれの違いについて解説します。

(4-1)退職一時金

退職一時金は、会社から一度にまとめて全額支払われます。
退職一時金が支払われるタイミングは企業により異なるので退職前に確認が必要です。
退職一時金は、「退職所得控除」(税金の軽減措置)の対象になります。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

(4-2)企業年金(退職年金)

企業が社員のために用意する年金制度です。
例えば、確定拠出型年金制度、確定給付型企業年金、厚生年金基金などが利用されています。
企業年金は、ほかの公的年金収入と合算して「雑所得」として、所得税や復興特別所得税が課税されます。

参考:企業年金制度|企業年金連合会
参考:年金と税金|企業年金連合会
参考:所得の種類と課税方法|国税庁

早期退職や退職金で起こりうるトラブル

早期退職や退職金をめぐって、労使でさまざまなトラブルが起こり得ます。
以下では、具体的な例を解説します。

(1)退職したくないのに早期退職を強要される

上司に会議室などに呼び出されて早期退職を強要されることがあります。
退職勧奨は法的拘束力がなく、あくまでも会社側からの「お願い」に過ぎないので、退職したくなければ応じなくてもよいです。
退職に応じる場合には退職の条件を会社側に文書で提示してもらい、あいまいなところや不明なところがあれば会社側に確認することが大切です。
条件に納得できない場合は弁護士に相談しましょう。

(2)早期退職を認めてもらえない

業績悪化により早期希望退職を募っている会社で、早期希望退職を申し込んだのに会社に認めてもらえないケースがあります。
例えば、会社側は早期希望退職を募っていても、優秀な社員は手放したくないと考え、承認をしない場合があるのです。
就業規則などに「早期退職は会社の承諾が必要」という規定があっても違法ではありません。

(3)早期退職優遇制度のある会社で割増退職金が支払われない

早期退職優遇制度を設けている会社で、早期退職を申し込んだにもかかわらず、割増退職金をもらえないことがあります。
会社によって対象者や人数、募集期間、条件などが限られていることもあるので、なぜ割増退職金にならないのか会社側に確認しましょう。
そもそも会社に退職金規程などがあるにもかかわらず、退職金自体支払われない場合は違法である可能性もあるため、弁護士に相談しましょう。

【まとめ】早期退職の退職金でトラブルになった場合は弁護士にご相談ください

早期退職すると退職金が多めにもらえることが多いです。
ところが中には、退職したくないのに早期退職を強要されたり、退職金がいつまで経っても支払われないといったトラブルも生じたりすることもあります。
そのような場合は、弁護士に依頼すれば会社側と交渉してもらえるので早めに弁護士に相談することをおすすめします。

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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