雇用契約書ってなに?雇用契約をするときの注意点について弁護士が解説

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さて、その次に待っているのは雇用契約です。

通常、雇用契約は雇用契約書を交わして行われます。
雇用契約書は「雇用契約を締結したこと」を証明する重要な書類となります。

では雇用契約をするときにどのようなことに注意したらよいでしょうか。
雇用契約書について弁護士が解説します。

雇用契約書とは何か?

入社したときに「雇用契約書」にサインをすることがあります。
まずはこの雇用契約書について、詳しくご説明します。

(1)雇用契約書の定義

雇用契約書とは、「雇用契約」の内容を記したものです。
雇用契約とは、雇用主と労働者の間で、
「労働者が雇用主に労働に従事すること+雇用主が労働者に報酬を支払うこと」
を約束する契約のことです(民法623条)。

※雇用契約とほぼ同じ意味のものとして、「労働契約」があります。
労働契約は
「労働者が雇用主に使用されて労働すること+雇用主が賃金を支払うこと」
を意味します。

日常生活においては、区別する必要はあまりありません。

雇用契約書は、雇用契約を締結したことの証明として交わされることが多いです。
労働契約も同じく雇用契約書という名称で契約が交わされることが多くあります。

雇用契約や労働契約は雇用主と当事者の口頭での約束で成立します。
雇用契約を書面で交わすことは、法律上、義務付けられていません。
しかし、労働契約法4条2項にて、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとするとされており、多くの企業で雇用契約書が交わされます。
雇用契約書が作成されるのは、次のような意義があるからです。

(2)雇用契約書を作成する意義

まず、雇用条件の明示により従業員の意識が向上するというメリットがあります。
雇用契約書の中で、勤務時間や賃金などの雇用条件を明示することで、雇用の内容に双方が同意したことが明確になります。
これにより、従業員も入社前に雇用条件を理解することができ、入社後のライフスタイルをイメージしてその会社に勤務する意識を高めることができます。

また、雇用主と雇用された側の間の労務トラブルを防止することができます。
雇用後に勤務時間や賃金について双方に食い違いが生じた場合、雇用契約時に定めたルールを再確認することができます。

(3)労働条件通知書と比較するとどの点が異なるのか?

雇用契約書と混同しやすいものとして、労働条件通知書があります。

(3-1)労働条件通知書とは

労働条件通知書とは、業務内容などの「労働条件を明示した」書面のことをいいます(労働基準法15条1項)。
労働条件通知書は、雇用契約を締結した際に雇用主から労働者に、一方的に交付されるものです。

引用:労働条件通知書|厚生労働省

(3-2)雇用契約書と労働条件通知書の違いは

雇用契約書と、労働条件通知書には、次の違いがあります。

  • 雇用契約書は、「合意したこと」を示すものです。

他方で、労働条件通知書は、雇用主が労働条件を一方的に明示するものであって、合意したことを示すものではありません。

  • 雇用契約書の作成は法律上、義務付けられていません。

他方で、労働条件通知書は、原則として書面で通知することが義務付けられています。
労働条件通知書の様式は決まっておらず、当該労働者に適用する部分を明確にした上で就業規則を交付する形にしても差し支えありません(平成11年1月29日基発45号)。

【比較】

雇用契約書労働条件通知書
内容合意したこと労働条件の明示
作成の要否必ずしも作成の必要はない原則として書面による通知が必要

参考:○労働基準法の一部を改正する法律の施行について|厚生労働省

(4)雇用契約書には法的効力があるのか?

雇用主と雇用される側が合意して雇用契約書を交わしている以上は、雇用契約書には、原則として「約束を守らなければならない」との法的効力が生じます。

雇用契約書と一緒に交付される労働条件通知書の記載事項

雇用契約書と労働条件通知書は、一つの書面にして交付されることも多いです(雇用契約書兼労働条件通知書など)。

労働条件通知書には記載すべき内容が法律上定められています。
具体的には、労働条件通知書には、次の事項を記載しなければなりません。

  • 原則として必ず書面での明示が必要な「絶対的明示事項」
  • 該当する場合は明示しなければならないが、書面での明示は必要がない「相対的明示事項」

(1)絶対的明示事項の内容

絶対的明示事項とは、原則として書面上で必ず明示しなければならない事項をいいます。
なお、2019年4月1日から、労働者の希望があれば、例外的にファクシミリや電子メール等による明示も可能になりました。

絶対的明示事項としては次のものがあります。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所
  • 従事すべき業務
  • 始業・終業の時刻
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 休憩時間
  • 休日
  • 休暇
  • 就業時転換(労働者を2グループ以上に分けて就業させる場合)
  • 賃金の決定・計算・支払いの方法
  • 賃金の締め切り・支払の時期
  • 昇給 ※昇給に関しては書面による明示は必要ありません。
  • 退職・解雇事由

参考:平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります|厚生労働省

(2)相対的明示事項の内容

相対的明示事項とは、企業に規定がある場合は明示しなければならない事項をいいます。
相対的明示事項は、絶対的明示事項とは異なり、書面による明示は義務付けられていません。
相対的明示事項としては、次のものがあります。

  1. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲
  2. 退職手当の決定・計算・支払いの方法
  3. 退職手当の支払い時期
  4. 臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当、奨励加給、能率手当
  5. 最低賃金額
  6. 労働者に負担させる食費、作業用品など
  7. 安全及び衛生
  8. 職業訓練
  9. 災害補償・業務外の傷病扶助
  10. 表彰・制裁
  11. 休職

雇用形態別の記載事項に関する注意点

労働条件通知書の「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」は雇用形態、すなわち正社員や契約社員、パート・アルバイトに共通する記載事項です。
しかし雇用契約書を交わす際に注意すべき労働条件の内容は、雇用形態によって異なります。
以下で、解説します。

(1)正社員の場合

正社員の場合は、転勤や業務配置の転換が予定されていることがあります。
転勤や業務配置の転換により、労働者の生活は大きく変化することになります。
転勤や業務配置の可能性があるのかきちんと確認してから雇用契約書にサインしましょう。

なお、正社員の場合は、長期間の就業が考えられ、転勤や業務配置の転換の有無や時期は予測が困難です。
そこで、労働条件通知書に「転勤や業務配置の転換を命ずる場合がある」といった記載をしている企業も多いようです。

(2)契約社員の場合

契約社員の場合、通常は有期契約となるため、絶対的明示事項である契約期間の記載について注意が必要です。

契約期間は原則として3年以内に設定する必要があり、契約期間中は原則として期間が満了しないと退職できません(民法628条)。
契約社員の雇用契約を更新したことにより、通算5年以上の期間雇用した場合は、契約社員が希望をすれば、雇用主は無期契約への転換に応じる義務が生じます。
無期契約に転換されれば、原則として定年まで雇用されることになります。

労働条件通知書にて契約期間および契約更新の有無や時期までしっかりと確認してから、雇用契約書にサインしましょう。

(3)パート・アルバイトの場合

パート・アルバイトの場合、絶対的明示事項である賃金の記載について注意が必要です。
時給や、昇給、賞与の有無などについてきちんと確認してから、雇用契約書にサインしましょう。

雇用契約書を交わしていない場合、何が問題になるか?

雇用契約書の作成は義務ではありませんが、いざ作成していないとどのようなデメリットがあるのでしょうか。

確かに、労働条件通知書があれば、雇用契約書がなくても困らないのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、労働条件通知書は、雇用主が労働者に一方的に交付する書面です。
そのため労働条件通知書を一方的に交付され、よく読まないまま、「じゃあこれで契約ね」と口頭で押し切られて承諾してしまうこともあります。
そのため、実際に想定していた労働条件と労働条件通知書の内容が違っていたということも起こり得ます。

反面、雇用契約書がある場合には、基本的にはサインするまでは効力が発生しません。
そのため、口頭で雇用契約するよりも、時間をかけて雇用契約を締結するかを選びやすくなります。
また、労働条件通知書は、雇用契約を締結したことを証明する書面ではないため、雇用契約書を交わしていないと、後日、契約した、契約していないでトラブルになることもあります。

そのため、雇用契約書を用いて契約した方がトラブルは生じにくいといえます。

(1)罰則はあるのか?

前述の通り雇用契約書を作成することは法律上義務付けられていませんので、雇用契約書を作成しなくとも罰せられることはありません。
他方で、労働条件通知書の明示義務に反すると、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法120条)。

(2)おかしいと感じた場合は弁護士にご相談を

  • 雇用契約書の内容や労働条件通知書の内容がおかしい
  • 労働条件をろくに教えてくれないし、労働条件通知書すら交付してもらえない。なんだか変だ

と感じた場合には、雇用契約書にサインをする前に、弁護士に相談しましょう。

雇用主は労働者よりも立場が強いため、やむをえずに従ってしまうこともあるかと思われますが、泣き寝入りをせずに客観的な立場にある弁護士に相談すれば解決の糸口が見つかる可能性があります。

【まとめ】雇用契約書に関するトラブルは弁護士へ

以上の通り、雇用契約書は、雇用契約を締結したことを証明する書面です。
雇用契約は口頭でも可能ですが、書面で契約した方がトラブルは生じにくいといえます。
雇用契約の際は労働条件通知書も交付されますので、きちんと労働条件を確認してから雇用契約書にサインしましょう。
雇用契約書の内容がおかしいと感じたら、その場でサインをせず、各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーなどにご相談ください。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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